【ストーリー】
下校時間。じゃれあう伸介と横山。
しかし横山の視線は、ふと公園で遊ぶ子ども達の方へ。
横山「サッカーって面白そうですね……」
伸介「横山、俺を見捨てんなよな」
横山「は?」
伸介「うちで人生ゲームやる約束だよな!?」
横山「ええ……」
伸介「お前ほんとはサッカーを」
横山「わかります?」
伸介「横山、俺を見捨てないでくれ! 横山俺を見捨てないで! 見捨てないで!……」
横山の手を引き哀願する伸介。場面は変わって寝床の伸介は、うなされてカミタマンの手を引っぱっている。
伸介「見捨てないで、横山、見捨てないで……」
手を引っぱられて始末に負えないとカミタマンは、伸介を変身させる。困ったときのネモトマン。
ネモトマン「神に代わって悪を切る! 正義のスーパーヒーロー、爆発・ザ・ネモトマン! ……カミタマン、今日の任務は?」
カミタマン「目を覚まさせただけ」
がっくりのネモトマンは再び寝床へ。
カミタマン「こら伸介! 今何時だと思ってるんだ! 8時35分だぞ!」
ネモトマン「ええっ!?」
大慌ての伸介は、まったりムードの朝の根本家食卓を尻目に、「いってきまーす」と飯も食わず玄関を飛び出した。
駆け足で学校へ。しかし校門は閉じられている。校庭には人っ子一人いない。これは一体……? 考え込む伸介のそばを、竹馬に乗った少年が通り過ぎていく。
伸介「……やっぱり!」
根本家では伸介をほったらかしで遅い朝食タイムが過ぎていた。
伸介「日曜日なら日曜日だって教えてくれればいいでしょう!?」
むくれて帰宅した伸介だが、食卓にはすでに誰もいなかった。
伸介「みんなどこ行っちゃったんだよう!」
パパママはデート、マリはボールを持って公園に、カミタマンは空き地でお昼寝。すでにそれぞれの休日を楽しんでいたのだ。
残されたごはんと味噌汁を一人やけ食いの伸介の日曜の朝。
さて横山は、友達と合流しそこねたマリにアプローチをかけていた。
横山「今日はいいお天気ですね。このぶんで行くと今年の夏は太平洋から高気圧に覆われ……実は僕高血圧なんです」
露骨に嫌な顔をして逃げるマリに、懲りることなくつきまとう横山。ついに振り返りざまのマリの鋭いストレートパンチが横山の顔面をとらえた。
横山はなぜか、マリにふられたことを電話で伸介に報告するが、やけ食い中だった伸介は即座に横山のところに駆けつけ、フライパンの一撃を横山に食らわす。
伸介「うちのマリに手を出すな!」
横山は今度は、昼寝中のカミタマンの元に姿を現した。
カミタマン「こら横山、お前何やってんだ?」
横山「青春してるんだ」
と空き缶を蹴る横山。
カミタマン「空き缶を蹴る青春か。ずいぶん暗いなあ」
横山「でも僕希望を持ってる」
カミタマン「何の?」
横山「生きる。……そこへいくと根本なんか」
カミタマン「伸介がどうした?」
横山「根本には希望はない」
カミタマン「どういうことだ?」
横山「根本は空き缶も蹴れない」
横山「それに根本って正直言って、頭がピヨピヨなんだ」
横山「あれで根性だけでもあれば……」
(逃げた根性を探す伸介のイメージ)
まあ取り柄として性格がいいってのは認めるけど」
(頭をかきむしってえへへ、えへへと笑う伸介。性格のいい子のイメージらしい)
言いたい放題の横山を懲らしめて帰宅したカミタマンだったが……。
伸介「え? 横山が僕のことを、運動神経が鈍く、頭がピヨピヨで、根性がなくて、取り柄は性格がいいくらいだって!?……当たってるじゃん」
カミタマン「なぁあああ……! ダメだこりゃ」
空き地でもがいている横山のところに戻ったカミタマン。
カミタマン「おーい、ごめんごめん横山。伸介はどうやらお前が言ったとおりのやつらしいわ」
横山「だろ? 僕ぐらいだよ根本とつきあってあげてるの」
カミタマン「ああ、伸介の両親になりかわって感謝する」
横山「んなことはいいけど、僕が心配なのはマリちゃんのこと」
カミタマン「?」
横山「ダメな兄を持って非行に走る少女」
(積み木を崩すグレたマリのイメージ)
横山「ダメな兄を持って不幸になる少女)
(内職で家計を支える乙女のイメージ)
横山「ダメな兄を持ってフケる少女」
このままではマリの将来が……。横山の解決策は、伸介にマリの兄をやめてもらうというものだった。
横山「それがマリちゃんを非行から、不幸から、そして敬老から救う道です!」
全面的に納得してしまったカミタマン。
カミタマン「横山、お前は伸介にとってほん、とーうの親友だ。できれば結婚を前提としてつきあってもらえれば……」
伸介「どうして僕がマリの兄をやってるとマリが不幸になるんだ!」
カミタマン「伸介! そういうことは、自分で考えなさい」
伸介「……ハイ!」
素直に考え込んでしまった伸介。伸介の妨害を取り除いてマリにアプローチするための横山の奸計は功奏したのだ。
マリのマリを拾い、手渡すとおもむろに土下座する横山。
横山「マリちゃんお願い! 僕は変な気持ちで言ってるんじゃない。ただ僕はマリちゃんのお世話をしたいだけなんだ。マリちゃんのスカートを洗ったり、靴下はかしてあげたり……」
今度はマリの蹴りが横山の顔面に入った。
マリ「えい! この! 気持ち悪い!」
ぼこぼこにされる横山。
一方根本家では伸介が一人物思いに沈んでいた。
伸介「どうして僕が兄やってると、マリが不幸になるのか。それじゃあ僕が姉やると、マリが幸福になるっていうのか?」
包帯だらけの横山は、なおもマリにつきまとった。
横山「マリちゃん! お願いお世話さして……」
本気モードのマリ。指をバキバキ鳴らす。
マリ「この、変態! やっつけてやる」
横山の悲鳴が公園にこだましていた。
伸介の思考は路頭に迷っていた。
伸介「う~ん……いや、僕がマリのおばになったほうがいいか? いや、親戚よりマリの妻になった方がいいか……ああわかんねえ!」
マリ「ちっちゃな頃から悪ガキで」
横山「十五で不良と呼ばれたよ」
呼ばれていない横山は懲りずにマリにつきまとっていた。声のする方に大岩を投げつけるマリ。
岩が命中したらしい横山は、マリに未練があったのだろう。幽霊となって化けて出た。
横山「マリちゃん……お世話したい……お世話したい……」
悲鳴を上げて逃げるマリ。
伸介「そうか、わかった! 僕がマリの親戚のジャガイモになればいいんだ! いや、タマネギに……いやいや、アスパラガスになればマリが幸せに……そんなバカな……」
逆立ちの成果もむなしく、伸介の思考は迷走していた。
そこに逃げ帰ってきたマリ。
マリ「お兄ちゃん! 横山さんのお化けが! お化けが!」
伸介「マリ……。そうだマリ、お兄ちゃんは今日からマリのお兄ちゃんではなく、マリの親戚のアスパラガスになるけど、マリは幸せになってくれるかい?」
マリ「は???」
伸介「マリ……お兄ちゃんじゃなくて……親戚の、アスパラガスは……マリが……幸せに……なればぁ……親戚の、アスパラガスが、不幸せになるんだ」
つきあっていられないマリは、兄の頭をおぼんでコツン。
伸介「マリ? お兄ちゃんがお兄ちゃんであることと、お兄ちゃんが親戚のアスパラガスであることと、どっちがいい?」
マリ「何だかわからないけど、アスパラガスよりお兄ちゃんの方がいい」
伸介「ええ! 本当!? がーん」
わけのわからない思考の果てに倒れた伸介だったが、結論はそう間違っていなかった。
伸介「カミタマンのやつ。よくも僕にマリの兄をやめさせようとしたな! マリがのぞんでいるじゃないか! ……カミタマン!」
カミタマン「うるさいなあ。伸介」
伸介「カミタマン、僕をネモトマンにしろ! さあ、早く!」
カミタマン「ほんげえ? いいのかほんとに?」
伸介「早く!」
カミタマン「よおし! カモンカカモンカカモカカミター!」
ネモトマン「正義のスーパーヒーロー、爆発・ザ・ネモトマン!」
カミタマン「で、誰をやっつけるんだ?」
ネモトマン「カミタマン! お前だ!」
カミタマン「エエッ!」
ネモトマン「正義は悪を退治する!」
居間を逃げまくるカミタマンを追い回すネモトマン。今日は滅法強かった。
パンチは決まり、カミタンブーメランすら通用しない。華麗にブーメランをかわしたネモトマンは、ブーメランにカミタマンをぶつけ、ノックアウト。さらに攻撃を加えようとしたところに、仲むつまじいパパとママが帰宅。
映画館でデートだったようで、上機嫌のパパに、ママは焼き肉の夕食を約束させた。
カミタマン「やきにくぅ~……」
伸介・マリ「やったやった焼き肉だあ!」
完全グロッキーなカミタマンを尻目に、大喜びの兄妹。
焼き肉屋にて。
伸介「俺の肉に手を出すな」
マリ「私の方が早かった」
伸介「俺が兄貴だぞ」
マリ「それ以上太る気?」
伸介「関係ねえよ!」
この兄妹。仲がいいのか悪いのか……。
カミタマン「はあ、ダメ。痛いよう……」
根本家では、ネモトマンにのされたカミタマンが、動けずに焼き肉屋に行き損ね、こっちも傷だらけの横山に看病してもらっていた。
カミタマン「横山……。お前のおかげで焼き肉食べ損なったじゃないか! はあ~ぁ、ビビンバ……」
横山「クッパ……」
敗軍の二人の夜は長い。
【コメント】
全エピソード中でも指折りの傑作といえる一本。密度がすごい。テンポもいい。強烈なネタも枚挙にいとまがないが、好みであげるなら、伸介のイメージショットの「性格のいい子」と、横山の「お世話したい」発言。
「性格のいい子」は、要するにどうみても知的にアレな子の生々しい……。この描写はやばいというか、完全アウトでしょう(笑) よく意味がわからないから問題視されなかっただけで……。
横山は、ペットントンの根本やネムリンの中山と同じラインに属する「一見優等生だが実は特に勉強ができるわけでもおぼっちゃんでもない変態小学生」キャラだが、根本に比べればはるかにまともっちゅうかお近づきになってもまあ構わないかな、ってキャラである(そこがコアな浦沢ファンには物足りないのだろう)。しかしこの発言は面白すぎる。「お世話したい」なんて普通は思いつかない。こんな変態はあまり見かけない。やっぱり浦沢さん天才。
全体的な流れの中では、当初変身をいやがりまくっていた伸介が、自ら変身したいと言い出す頃。ほとんど連戦連敗のネモトマンが、実はカミタマンには滅法強い。無敵とも言えるカミタンブーメランは根本親子には通用しないという設定が明らかにされる回、である。
個人的感想になるが、子どもの遊びや風俗が懐かしい。じゃれてるときの横山の「胃袋つかみー」とか、マリの手まり歌(なぜか三度目は「ギザギザハートの子守唄」になるがw)、すごく懐かしい。筆者の近所は通り一本だけで小学生が十人以上いて、異年齢で遊び、かごめかごめもやったし、女の子のゴム跳び、手まり歌も、記憶に残っている。
それから伸介のやらかした「日曜登校」、筆者も経験があるのだ。誰もいない、校門の閉め切られた学校の前で秋風に吹かれたあの日……。このネタも普通思いつかないと思うので、浦沢さんの経験だろうか。
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